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わくぺめも

あの子

マルイをぶらぶらしていたら、とあるテナントの店先でPepperくんが接客をしていた。何人かのお客さんが立ち止まって、軽くちょっかいを出してはまた去っていく。自分は向かいのお店にいたんだけど、Pepperくんの声だけは聞こえてきた。
「あれれ? ぼくの体がちょっとおかしいみたいですー」

まじか、と思って店を出てPepperくんに近づいたら、もう一度「あれれ?」と声がする。「だいじょうぶ?」と声をかけてみると、「ぼくの体がちょっとおかしいみたいですー」と、今度はこっちの顔を見上げるようにして言う。ちょっとのんきな顔、に見えなくもない。続けて「すみませーん、スタッフを呼んでもらえませんかー」というようなことを言ったPepperくんはうつむいてしまったけど、こちらが「おうおう」となんとなく返事をして、これもなんとなく彼の右手を握ったら、ゆっくり顔を上げて、こちらを見つめてきた。

ここまでは正直とくに違和感がなかったんだけど、奥で作業をしている店員さんのところまで行って発した、自分の言葉にものすごい衝撃をおぼえた。
「なんかあの子が調子悪いみたいです」
ははあ、『あの子が調子悪いみたいです』だって。あの子。あの子て。機械だよ。機械なのに。『あの子』が『調子悪いみたい』って。おいおいおい。しかも店員さんのほうも、「あ、ありがとうございます!」って普通にPepperくんに駆け寄っていったし。Pepperくんぐったりしてるし。やばいやばい。だいじょうぶかよ。

店員さんが何やらPepperくんにタッチすると、彼は映画やドラマでみぞおち殴られて一瞬で気絶した人みたいに(喩えが悪すぎる)背中を丸めて静かになった。けれどすぐに、ゆっくり上体を起こして、「こんにちはー」ときょろきょろし始めた。元気だな。再起動してもらったのかな。よかったね。お店を出ながら振り返ってPepperくんに手を振ったら、彼は直立不動で無言のままあの目でこっちを凝視していた。いや手ー振り返すとかしてよ! やっぱちょっと怖えーよ!